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皆伐と更新

更新日:2020年8月20日


山仕事創造舎では2019年、年末ぎりぎりまでかかってカラマツ林の皆伐現場をなんとか完了させることができました。例年に無く雪の少ない冬ではありますが、雪に埋もれる前に搬出し製材~製品化~建築までのスケジュールが決まっていたので春まで待って出すというわけにはいかなかったのです。

森林の木を全部伐って収穫することを皆伐と呼びます。持続可能な林業経営を目指す場合でも必要に応じて皆伐は行います。皆伐は森林を破壊してしまうわけではありません。再び木を植えるか、植えずに天然更新によって天然生林に誘導するか、いずれにしても必ず次の世代の森林に引き継ぐ更新が必要です。皆伐は環境を激変させる作業ですから特別に配慮が必要で、できるだけ小面積で分散して行うことが望ましいのですが、森林の地形や地質、更新の目標などによって、単純に何ヘクタール以下なら良いと言えるものではありません。

大町市美麻地区にある元の関森林経営団地では、今年度14ヘクタールの間伐と0.8ヘクタールの皆伐を行いました。

ここはどこにでもあるような手入れが遅れがちな集落に隣接した里山で、多くはカラマツやスギが植林された人工林。まずは作業道を入れて間伐をし、間伐材を利用しながら森林を健康な状態に導くというのが一般的な施業の方針になるところです。

こうした間伐を行う場合の長期の方針はどのように考えるのでしょうか。できるだけ長期にわたって森林を育成し大木を育てる、ということが補助金を活用した事業の標準的な考え方になります。森林の公益的機能を高めながら木材を生産するというが、森林整備に公費が使われる理由だからです。

今回皆伐をすることにしたのは地主さんからの強い要望があったことがあります。全部伐って雑木山にしてほしいというのが要望でした。

地主さんの要望だけでは施業方針は決められません

実地に山に入り、現状を分析し、将来の山の姿を考える、専門の施業プランナーと設計担当者による調査検討がすすめられました。

そのカラマツ林は地主さんの住宅の南側にあり樹高は30mを超えていました。日当たりが悪く万が一倒れれば住宅を直撃しそうな圧迫感があり、その気持ちはすぐに理解できました。

さらに森林に入って詳しく調査を進めると、間伐が遅れ気味だったために、カラマツの枝が枯れあがり木全体の上のほうに3割くらいしか残っていませんでした。樹齢は61年で樹高は30m、そろそろ伸びが止まるころです。

直径と高さの比率が80を超えると大雪や強風にとても弱い状態になるといわれていますが、ここの木は100を超えています。この山を間伐しても残された樹木が元気に回復して枝を張り、太い木になる見込みはほとんど無さそうでした。

一方でカラマツの下にはミズキやコナラなど広葉樹の稚樹がたくさん育っていました。カラマツ林は過密な状態でも光が林床まで差し込むので、樹木の実生が育ちやすいのです。

地形はなだらかで、大きな木が無くなっても土砂崩れが起きるような地形ではありません。

こうした条件を総合して、この山は皆伐し、植林はせずに天然更新に任せることが最適だという判断になりました。

皆伐天然更新には補助金は出ません。費用のすべてを木材の売り上げでまかなったうえで、山主さんにできるだけ多くの売り上げをお返ししなければなりません。

幸いなことに今カラマツは人気があり、市場価格は高くなっています。主な用途は建築用の合板ですが、ここの材は太くて質が良いの建築の構造材にも使えます。

末口直径(丸太の細い方の直径)が30cmを超える部分は、山仕事創造舎で計画中の新な拠点の建築に使われる見込みです。

総カラマツ構造の建築を手掛ける、山野辺建築設計事務所の宮坂直志さんの設計です。

今年の春、このカラマツ林の跡に様々な広葉樹が芽吹くことを期待しています。もちろんしっかりと更新が成り立つまで最低5年間は観察が必要で、うまく木が育たないところには植栽も考えなければなりません。

できるだけ、人手をかけず自然の力に任せることで、人々の生活に密接な里山林を次世代につなぎたい。持続可能な森林経営のモデルとしてこのような皆伐更新を技術的にも確立していく必要があると考えています。

もちろん伐ったカラマツは次の世代の森林が育つ時間以上に長い期間、建物として利用される必要があります。そんな建築と建築を活かす事業が続くことが、本当に持続可能な林業の支えになるはずです。

ソマの道からはじめる暮らし。ソマミチによる連携はこうして日々具体的に進みます。


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