
晴れて静岡市にある井川森林組合に就職した私に最初に下りた辞令。そこには「素材生産担当補佐」と書かれていました。
林業は、大きく分けて「造林」(植林してから下刈りなどをして育てていく工程)と「素材生産」(育った木を収穫する工程)に大別されます。
素材生産担当とはつまり木を伐る仕事。私は事務の担当でしたが、当時の職場の事情により、現場作業も行うことになりました。日中は労務班のじいちゃん達と現場で伐出(ばっしゅつ)の作業をし、夕方事務所に戻って管理業務を行う毎日…。今振り返ると素材生産業務のすべてを経験できたのは幸運でしたが、それはそれは肉体的にハードな日々でした。危険度も高く、まさに3Kの極地。「やめさせたいのか?」
いやいや、それを乗り越え数年たったとき、あることに気づかされたのです。樹木学~木挽き職人~素材生産。ここに貫かれているものは「木を活かす」ということ。これが私の使命の一つなのではないかと。
<ヒノキ>
皆さんご存知の木曽ヒノキの成り立ちに「木を活かす」につながる興味深い現象があります。木曽ヒノキの生育地で減少する資源を守ろうとヒノキの伐採を禁止したエリアがありました。するとそこにはヒノキの稚樹(ちじゅ)ではなくアスナロが生えてくるようになりました。なぜか。ヒノキの伐採を止めたことによる日照条件の変化が、皮肉にもヒノキではなくアスナロの稚樹が芽を出す条件に合ってしまったからです。つまり適度な利用(伐採)が木曽ヒノキの林を成り立たせていたのです。
<アスナロ> 写真は中部森林管理局ホームページ木曽五木よりお借りしました
この「適度な利用(伐採)が必要な林を育む」ということは、日本では大変重要な視点になります。市民のみなさまが大変関心を寄せている松枯れにおいてもまた然(しか)りです。昔から病虫害などで松が枯れることはあったようですが、昔の燃料は薪でしたから、枯れたものはあっという間に伐採され山から運び出されました。落ち葉も堆肥や焚(た)き付けとしてなくてはならない資材。そのような山の利用が、健全な松が生育する環境が自然に整えられていたのですね。これからの時代に私たちはどのような林を必要とするのでしょうか。その林を育むために、どんな利用をしていけばいいのでしょうか。「木を伐るとは活かすということ」私が代表を務める柳沢林業の理念のひとつですが、木を伐り、材木として暮らしに活かしながら山を生かす。木挽き職人の林さんから学んだ日本の木の文化の神髄。私は林業を通して、それを継承するという使命を果たしていこうと思います。
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