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孫のために木を植える



 出会いと別れ。先月恩師の一人である元信大森林科学科教授の島崎洋路先生が亡くなられました。享年92歳でした。

 その数か月前、やはり信大森林科教授でいらっしゃった菅原聰先生と出会います。

菅原先生は御年90歳。「木の文化」を継承したいと林業の世界に入った私にとって、このタイミングでの卒寿を越えたお二人との出会いと別れは、まさに今、「木の文化」を伝えていく役割が自分に託されたのだと強く感じる出来事となりました。


 私は大学卒業後、小さな山村で林業の世界へ入り、現場のじいちゃん達と出会います。今生きていれば、両先生方と同世代。時代劇や民俗資料館で知るような世界がリアルに語られる日々の中、いちばん変化したのは「時間」に対する感覚でした。

 対象とする樹木の寿命が100年単位の林業の世界では、自ずと時間軸は長くなります。苦労して植えた木の行く末を、自分が生きている間に見ることはできません。それでも昔の人々は「孫のために」と木を植えました。孫が家を建てるときの材料に、孫が学校に行くときの学費にと、苗木を植え、手入れを続けたのです。



 「子どもの頃に爺様と一緒に山で汗を流した」そう話す方は今でも少なくありませんが、この、《世代を越えて想いを馳せること》が現代では難しくなっているように感じます。高度経済成長期を経て核家族化が進んだこと、少子化や過疎化で地域の行事継続が難しくなっていること…様々な理由で《多世代交流の場》が減ってしまったことも要因かと思います。


「遠くをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す」とは二宮尊徳の有名な言葉ですが、子や孫の世代へ思いを馳せる前に《近くをはかる》方々が多くなってしまったように感じられることを寂しく思います。菅原先生も「年寄りの話を聞くことの大切さは、長い時間軸で物事を見られるようになることだ」とおっしゃってました。



 短期利益追求時代のしわ寄せがきている一次産業の中でも特に真逆の(長い)時間軸を求められる林業を通じて、時代に逆行していると笑われても《遠くをはかり》つつ、社員と地域を豊かにしていきたいと思っています。

 長い時間軸をもって次世代への思いを大切にしながら、林業を「周回遅れの一等賞」(いちばん遅れていると思われながら実は時代の最先端を走っている)にすることが私の夢です。そして、それこそが、林業を通じて出逢った人生の大先輩方からいただいた大切なものを引き継いでいく私の使命でもあると思っています。

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